Episode - 01


「モンゴルに土地を買いたい」

ルイは聞こえてはいたが、社長であるタカコの言葉に返事はおろか振り向くこともせず、キーボードを叩いてた。

「またか」 そんな呆れる思いと共に。

ファッションブランドといえば東京の青山や表参道、渋谷にオフィスやショップを持つことが半ば常識である中、タカコが約30年前に創業したブランド「FACTORY(ファクトリー)」は栃木県の足利市に拠点を置き、路面店のショップも運営していた。

東京のアパレル企業に勤める人々が聞いたら、首を傾げるだろう。
「栃木の足利に路面店をつくって、うまくいくのか?」

しかし、創業以来FACTORYはファンを獲得し続け、着実に業績を伸ばしてきた。

その秘密は服づくりへのこだわりにある。

通常、ファッションブランドは自社の商品生産を縫製工場へ依頼する。
だが、FACTORYは違う。
ショップから車で20分ほどの場所に自社の縫製工場を設立し、そこで商品生産を行い、服のクオリティを自分たちの目と手で管理している。
縫製設備だけでなく、染色設備を揃え、無縫製ニット商品の生産を可能にするホールガーメント機も4台導入するなど、服づくりにエネルギーを注ぎ込んできた。
そうして生産された服をタカコたちは路面店のショップを通じて自分たちでも販売している。

 

こうして生まれたFACTORYの服は、飾り立てる華やかさからは距離を置いたシンプルなデザインで、素材の感触とシルエットの快適さを楽しめる服となり、多くのファンを魅了する。
数十年に渡るブランドの歴史は、ひとえに服づくりへの強く熱い思いが実現させてきたと言える。

服づくりへの強いこだわりは、FACTORYの柱となったのは確かだった。
だが、その一方で縫製工場といった設備を設立するには、相当なエネルギーが必要である。

ルイはそのことを思い出すと、背中が暗い影に覆われる気分になる。
現場で主に動くことになるのは自分なのだから。

だが、タカコの強烈なエネルギーがFACTORYを成長させてきたことも十分に理解している。
それだけに「モンゴルに土地を買いたい」というタカコの発言には、素直な反応を示すことができなかった。しかも今度は日本ではなく、海外に。

ルイのキーボードを叩くスピードが遅くなった瞬間、タカコがふたたび言う。
「買うわよ」


〈続〉