Episode-06

糸も自分たちでつくる

遊牧民たちから原毛を入手できるところまできた FACTORY。しかし、理想の素材を作るにはまだ必要な条件があった。

一つめは原毛の収穫時期である。正確に言うならば、同じ時期に収穫した原毛を揃えるこ との重要性だと言える。極寒のバヤンホンゴルで育った動物であっても、毎年現地の気候は違い、収穫時期によっても気候は異なってくるため、おのずと収穫時期のズレが原毛の状態を変えてしまう。

収穫する年・時期によって毛の太さと長さは異なり、繊維長の短い原毛と、長い原毛を混ぜて紡績すれば、毛が抜けやすい糸に仕上がる。そのため、理想は油分を含み、弾力性に富む長い繊維の原毛だけを揃えて紡績することになる。コンディションのバラバラな原毛を一緒に使わず、コンディションの良い原毛だけを大量に揃えることが重要だった。

二つめは、原毛の毛刈り方法である。バリカンで動物の毛に鋏を入れて毛刈りをするのが主流であるが、ブラッシングによって毛刈りをした原毛の方がコンディションが良かったのだ。しかも、動物たちの毛が自然に抜け落ちるタイミングにブラッシングを行うことで、原毛のクオリティがよりアップしていた。

タカコたちは遊牧民に、バリカンではなくブラッシングでの毛刈りをお願いする。そうしてブラッシングで収穫された原毛は、原毛が傷つかず毛根から毛が抜けているためにキューティクルが剥がれず、毛刈りした原毛から汚れを落とす洗いの工程においても、良いコンディションを保っていた。

タカコたちがこれらの条件が大切だと気づいたのは、偶然だった。最初から計算と計画によって、合理的に動いてきたわけではない。常に思い立ったら行動を起こし、その過程で 失敗を重ね、けれどそれがいくつもの発見を生み出し、FACTORY を成長させてきた。まずはチャレンジする思い切った姿勢が、モンゴルの地でも生きたことになる。

数々の困難を乗り越え、遊牧民から直接原毛を入手できるようになった。しかし、ここで新たな壁にぶつかる。当時は現地の洗い工場・整毛工場・紡績工場に外注し、原毛から糸にまで仕上げていたが、原毛を投入した工場が突如倒産し、原毛をすぐに工場から引き上げることができないなどのトラブルが生じた。また、FACTORY は工場側から見れば新規の取引先であったために、工場の閑散期に生産されることが多く、納期スケジュールが思い通りに進行しないことが多々あった。

そんな経験を経て、タカコたちは新たな目標を立ち上げた。それは「自分たちで糸をつくる」、つまり紡績工場の設立である。もっと良い素材を、もっと良い糸を、もっと良い原毛を。素材のクオリティを追求していった結果として、素材づくりの最も上流までたどり着く。もっと良い素材を。ただそれだけの思いで動いてきたタカコたちは、いよいよモン ゴルの地で紡績工場設立という難題へ挑む。

 

〈続〉