Episode-03
マギーが動くと、誰かに何かにつながる
ルイたちはモンゴルで素材を探すことに決めたが、モンゴルへの人脈があるわけではない。現在と違って当時はインターネットが普及しておらず、モンゴルについて調べることも容易ではなかった。
「どうやって行こうか?」
そうなればやることは地道で基本的なことだ。モンゴル大使館を尋ね、直接話を聞きに行く。
大使館への訪問で状況が一気に進展することはなかったが、ある一つの情報を手にする。東京都内にモンゴル料理を出すレストランがあり、そこにはモンゴル人が多く集まることを知る。そのレストランでモンゴル人と共にご飯を食べながら、話を聞けばいいのではないか。なんとも泥臭い方法で、モンゴルの情報収集を図ることになった。
すると、その狙いは当たる。
レストランを訪れると、そこにはモンゴル商工会議所に勤める人物が来ていたのだ。
「まずはモンゴルに行ってみるのがいいのでは?」
その人物がそう言うと話は進展し始め、現地で日本語を話せるガイドまで用意してくれることにもなった。
こうしてルイたちは、モンゴルで素材を探す手がかりを掴むことに成功する。明確な計画 や計算があったわけではなかったが、ルイとタカコたちは行動することで少しずつ道を切り拓き、可能性を作り出す。
「何もわからないけど、行ってみよう」
飛行機に乗り、7日間の滞在予定でモンゴルに到着すると、空港にはモンゴル人の女の子が二人待っていた。外見から予想するに一人は20代、もう一人は10代に見える。
ルイが名前を尋ねた。
「マギーです」
「ムギーです」
姉の名はマギーで、妹の名がムギー。彼女たちは日本語が話せるため、通訳として1週間案内することになるのだが、ルイは不安が過ぎる。
「大丈夫かな……」
ルイたちは FACTORY の秋冬シーズンに使用する素材を探しに来たが、マギーとムギーは服地素材としてのカシミヤやラクダに関する知識はまったく持ち合わせていない状態で、自分たちが今探しているもの、欲しいものを一から二人に説明する事になる。
「あ、そういうものが欲しいんですね」
マギーはそう言う。
ルイたちを取り巻く状況は素材探し以前の状態で、モンゴルに到着したはいいものの、これからの 7 日間どこに行けばいいのか、誰に会えばいいのか、まったく未知の状態となっていた。ルイたちは「ここから始まるのか……」と頭を抱える。
しかし、モンゴルには面白い利点があった。それはマギーが持つ人脈である。知りたいこと、訪れたい場所についてマギーに質問すると、関連する人物へマギーは繋いでくれた。この時もそうだった。
マギーの友人の兄が、モンゴル最大のカシミヤ工場であるゴビ工場の社長だったのだ。
モンゴルは面積が約 156 万平方メートルと日本の約4倍の広さを誇るが、人口は約335万人と少なく(日本の人口:約 1 億 2,000 万人)、国土面積に対して人口が少ないことで人と人の関係性が強くて近かった。モンゴルの人と人を繋ぐ線がまさに葉脈のように繋がっていき、FACTORY の素材探しにおいて大きな役割を果たす。その中心人物がマギーだった。日本語は話せても、服地素材に関する情報・知識は皆無でルイたちを不安にさせたマギーだが、彼女は自身の周囲から手がかりを掴む特異能力を持っていた。
ゼロから始まった栃木からモンゴルへの素材をめぐる旅。ルイたちはマギーの助けで、ようやくモンゴル素材を入手できるようになる。
しかし、物語は平穏には進まない。一つ目標が叶ったなら、新たな目標が生まれ、そこに向かっていきたくなるのは人間の性分。それはFACTORYにも言えた。
〈続〉