Episode-07

google earth

「モンゴルに土地を買いたい」

原毛から糸にする紡績も自分たちでやって、本当の意味でFACTORYオリジナルの素材をつくる。

タカコがモンゴルの土地を買おうと言った背景には、そんな服づくりへの覚悟と本気があった。しかし、ルイは困惑してしまう。つまりこれはモンゴルに紡績工場を建てるという意味であり、金額的にも人材的にもとても大きい計画になる。

ルイがやんわりと否定する態度を見せても、タカコはモンゴルで土地を買うことの意味を話し続ける。それでもルイの躊躇が続くと、最初は優しく語りかけてきたタカコだったが、次第に怒りを滲ませるようになり、進まない状況とルイに苛立ちを見せる。

「だからルイは仕事が遅くてダメなんだよ」

「いや、僕は FACTORY を一生の仕事だと思っている。だからこそ……」

「やるんだよ」

やんわりと反対する姿勢を見せ続けるルイをよそに、タカコはモンゴル在住のマギーへ電話し、「土地を探して」と伝える。するとマギーの話でまずわかったことは、モンゴルの不動産システムである。

モンゴルには不動産会社というものがなく、国が個人に土地を貸す賃貸から始まる。そして何年か賃料を払い続けると、土地の所有権を得られる資格が生まれ、そこで必要な金額を払うことで土地を所有することができる。

そうなると当然、土地の所有者の中には自身の土地を売りたいという者も現れてくる。しかし、モンゴルには先ほど述べた通り、土地の売買を仲介する不動産会社がない。ではどうするかと言うと、1 週間に一度、毎週金曜日に発行される新聞の三面記事に土地の販売情報が一覧として掲載される。土地の購入を希望する者は、その情報を見て自分が希望する土地があるどうかチェックする。土地情報が掲載されると、わずか 1 週間の間で売買が成立するスピード感でモンゴルは土地の売買が行われていた。

このシステムでは自分たちが土地を買うことは不可能だとルイは悟る。新聞に土地情報が掲載され、好立地の土地が出たとしても、すぐさま飛行機に乗ってモンゴルに行って現地 を見学するのは難しく、仮にモンゴルに行って土地の確認ができとしても、1 週間で売買が決まる取引スピードでは買うことは不可能に近い。

「このシステムじゃ、無理だよ。もし僕らがモンゴルに行って土地を確認できたとしても、そのころには売れちゃってるよ」

元々土地の購入に反対だったルイはそう言う。 しかし、タカコは諦めない。それで諦めるような人間ではなかった。無理だと思えることでも実現の可能性を探り、動き出す。それがタカコという人間だった。彼女は引き続きマギーに土地情報を調べてもらう。

ある日の夜、ルイが日本で自分のデスクに座り仕事をしていると、タカコが近づいて来る。ルイはその気配に気づきながらも、気づかないふりをしていた。

「マギーが言っている土地の場所を見てみて」

「え、いや、見るって……」

ルイはタカコと同じく日本にいる。無論、モンゴルの土地を直接見ることは不可能だ。となると google earth で確認するしかなかった。

「え?ここ?本当に?」

ルイはパソコンのモニターに映る画像を訝しそうに見つめる。マギーが教えてきた土地の住所は、空港近くの滑走路を映し出す。

「ここって、土地あるの?どこが売られているの?」

現地にはマギーがいて、ルイたちに土地の様子を教えてくれる。

「大丈夫、大丈夫、いいですよ」

マギーの軽い調子に「いや、本当に大丈夫なのか……」とルイは内心不安に思い、タカコにはこう伝える。

「すぐ売れちゃうんじゃないの?」

これで諦めるだろう。だがルイの思惑通りにはいかない。

「これで決めよう。マギー買って」

ルイは目を開いて驚く。いくら日本に比べて安いとはいえ、土地を、しかも海外の土地を現地で確認することなくgoogle earthで見た風景だけで決断して土地を買ってしまうとは。しかし、このタカコの思い切りの良さ、決断力、行動力がFACTORYのエネルギーだった。

FACTORYの根幹となる紡績工場の建設地は、驚きの決断と行動によって買われた。

 

〈続〉